大学は先端研究の花盛りである.「先端は末端に通じる」の例え通り,
先端研究に従事させたばかりに,役に立てない学生を産業界に送り
出している惨状が多く見受けられる.本来は基礎学問を徹底させた
基盤研究の土壌の上に先端的な研究に花が咲くのである.
企業研修で先端の学科を卒業した若きエンジニアが「鉄鋼の状態図」,
「応力とひずみ」など基礎的理解が不足したまま,産業界に入り苦労
しているのを多く見かける.足下を見つめ直さないと,ますます
「ゆるゆる」の日本になってしまうと危惧している.
研究は何をやっても自由,しかし教育は義務であり責任である.
決して研究を疎かにしてはならない.その研究結果は社会から個々に
厳しい評価を受ける.しかし,教育は社会的使命であり,教員の義務
であり大学の責務でもある.現状は研究が無くなるとその教育科目も
無くなる.先端とみなされない基盤材料,生産加工,機構学,図学,
工作実習・機械実験などの科目も風前の灯火である.研究は数年単位
で替わってもよいが,教育は少なくとも数十年以上の蓄積を前提と
しているからだ.カリキュラムを学生の選択に委ねてはならない.
個性と自主性尊重との観点からカリキュラムを学生の選択に委ねる
傾向がある.講演会のような最新技術・トピックスを中心とした授業は,
基礎学力のない学生にはすぐに頭から消えて行く.そこで筆者らの
学科は先進や先端よりも,それを支える基盤的な専門科目を深く耕す
教育が大切と考え,学部1年は物理(化学)・数学,学部2年は演習を
主体とした専門力学と実習・実験を多く配置した.結果として学生の
選択科目は少なくなった.育ち盛りには,口に合わない人参や,
ピーマンも食べてもらわなければならない.学生には苦い薬の投与も
必要である.専門を放棄した根無し草になってはならない.
産業界で貢献する機械系エンジニア,大学を含めた研究機関等で顕著な
成果をあげている機械系研究者に共通する要素は,「数学・物理・機械
系専門学力,つまり材料力学,流体力学,熱力学,メカニックス(機械
力学)などにおける深い造詣と基礎に裏打ちされた構想力」を持って
いる点である.したがって,自分の専門は無論のこと専門が異なった
分野でも,本質的な点で活躍しうるし,人を束ねることもできる.
さらに機械系の最大の価値は専門力学とこれを具体化する設計能力に
ある.この専門性を武器に異分野を取り込むことに意味がある.