早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
産業の空洞化が叫ばれて久しい。中国では人件費が日本の 20分の1,かつ品質も格段に上昇し「安かろう,良かろう」の評判が定着しつつある。それでは米国やドイツのような先進国でも産業の空洞化現象が起きているのだろうか。もちろん水が高きから低きに流れるように産業の転換・流出化はいずれの先進国でも起きている。だが、その流出化と同じくらい新しい産業が外国から流入しており、日本のような際だった産業の空洞化現象は問題になっていないという。それではなぜ日本は産業の流出が多く、海外からの新しい産業や資本の流入がないのであろうか。その原因を私は今まで日本の高物価、インフラの未整備、各種の規制などであろうと考えていた。ところがある米国人からびっくりするような話を聞いた。「最大の障壁は日本の人材である。英語を自由に駆使し、未知の分野を開拓し、戦略を立て、これを果敢に実行する国際的感覚を持ったエリートが決定的に不足している」と。
一方、台湾・中国・シンガポール等では欧米の留学経験を持ったエリート層が豊富である。特に多少の文化や国情が違っても、これらの欧米の手法を知悉した優秀な人材が接着剤として産業や国民を引っ張っている。翻って日本はどうであろうか。小学校からの平等思想がエリートを育成することを阻んできた。基礎学力はもちろん英語力、プ レゼンテーション力もおぼつかない。エリートという言葉自体も 忌み嫌われてきた。大学も然りである。どこにでもいる若者の中に大学生自身も埋没したいと望んでいるようだ。「君はやればできるんだ!」との励ましに対して「私は普通でいいのです。あまり買いかぶらないでください」と逃げを打つ学生。日本を、世界をリードするエリートとしての矜持をもって大学を目指す学生もめっきり少なくなった。これでいいのか大学? これで立ち行くのか日本!