早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
私は学部1年生に「自分はどの分野に就職したいのか今から決めておくように」とアドヴァイスしている。なぜなら就職活動が間近な学部3年生の後期になっても、自分が何をやりたいのかわからない学生が少なくないからである。多くの新入生は自分が選んだ学部、学科と自分の将来について真剣に考え抜いて決断したとは思えない。偏差値の高い大学・学部・学科であったから選択、あるいはその逆に偏差値が低く、やむなく選んだというのが真相であろう。以前は「将来、金属分野で活躍したいから東北大学の金属を」、「理論物理だったら京都大学の理学部を」弁護士になるため「中央大学法学部へ」と指向することも少なくなかった。「現在の大学は数十年前の高校、大学院が大学、博士課程が大学院とそれぞれ一段階ずれている。今の大学生に将来どうするのかと聞くことは、高校生にどこに就職したいのかと聞く位に無理がある」と論じる人もいる。
しかし、現実は無視できない。進路 を決めるのは待ったなしである。自分の進路を決める最初の一大事業が間近に控えている。自分のやりたいことが自然に見つかるはずがない。誰かが与えてくれるわけでもない。進路を定めたり、就職を決めることは恋人探しと同じである。自分は癒し系が好きなのか、励まし系がよいのか、または対等な友人タイプが好きなのか、いろいろなケー スがあろう。しかし、躊躇してはならない。いいなと思ったら、まず本人の情報を集め、直接会って、自分が想像しているような人か確かめる。多分、見かけとは全く違うタイプであることを発見するだろう。また逆に、つきあっているうちに自分の好みが変わることもある。むしろその方が一般的である。これを繰り返すことにより自分は何が好きで、何が嫌いなのかがはっきり解ってくるのである。
恋人選びと就職選びの究極の類似点は、いかに自分の思いを率直に語り、結果として相手を「ほろっとさせるか」にあると思っている。