早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
浅川研究室で電源開発株式会社(J パワー)の技術者をお招きし、3/11 の地震・津波と原子力発電立地について地質学者の観点から講演して頂いた。その中で東北電力女川と東京電力福島の原子力発電の際だった差異がまことに深刻であったし、興味深かった。東北電力には地質に造詣の深い技術者が東京電力に比較して多く,立地や地盤・地震・津波にはことのほか注意深いそうだ。女川原発が福島第一原発とは対照的に大事故に至らなかった理 由の一つとして、東北で生まれ育ち東北電力副社長まで務められた土木技術者の平井弥之助氏の尽力が大きいという。彼は、東北電力の女川原子力発電所の建設(1968年)に際して「海岸施設研究委員会」に参画し、869 年の貞観地震級の大津波に備えるために敷地を 14.8 メートルの高台に設けることを強く主張した。さらに引き波時に海底が露出する事態に備えて取水を確保する工夫も講じている。その結果、3月の女川原発は大事故を免れた。 女川原発以外にも新潟火力発電所の建設の際に軟弱地盤の液状化対策として、当時最大級のケーソンを埋め込んだ上に建物を建てたため、新潟火力発電所は1964年に発生したマグニチュード7.5の新潟地震を持ちこたえられたという。いずれにしても「公的に認められた方法で求めた津波高さの想定値」に対して、「それしか対策しなかった」とした会社と、「それとは別に独自の判断で対策を強化した」会社との違いが明暗を分けることになった。
危機を救うのは1人の人間である。反対に危機を作り出すのも1人の人間である。カシオの電卓、旧国鉄の新幹線、日本の半導体プロジェクト、シャープの液晶、住金の油井管、東レの炭素繊維、トヨタのハイブリッド自動車、アップルのアイフォーンのように世界を代表する新製品・新技術を誕生させた会社には、必ず自説を頑として主張して曲げない特定の個人がいた はずである。東電には残念ながら人を得ていなかった。国の発展も衰退も特定のリーダーがその国にいたか、いなかったかにかかっている。