ドイツ博物館の船舶展示の紹介です。ドイツには海運国というイメージはありませんが、船舶関係の展示は多くの帆船モデル、漁船や蒸気船、Uボートの実物に至るまで非常に充実しています。ドイツ博物館のwebサイトを見ると、船舶を「大陸間の架け橋」、コミュニケーションと貿易を促進し、地球を開放した重要な運送手段として捉えていることがわかります。また、帆船から蒸気船、ディーゼルエンジンに至る技術の発展とともに、船内の生活空間にもスポットを当てた展示となっています。博物館の外側にも、ルートヴィッヒス橋に面した側には巨大なスクリューが、エントランスのある中庭にも救命ボートとスクリューが展示されており、工業国としての誇りが感じられます。ドイツ博物館のwebサイトに紹介されているもう一つの海難救助巡洋艦は、筆者の訪問時には裏庭に移動されている姿を館内の渡り廊下から垣間見ることができました。

博物館内部の中央ホールには、帆船式の漁船や蒸気船、木造ヨットなどの実物が展示されており、漁船は一部がカットされて内部の生活空間を見ることができます。ヨットの模型も数多く、筆者が大学時代に乗っていた470級(オリンピック種目の二人乗りディンギー)の模型やヨットが風上に進む原理の説明もあって、懐かしく楽しいひと時を過ごせました。

地下のフロアには多くの帆船模型が並んでおり、模型作りが好きな方には堪らない空間となっています。アメリカズカップの発祥となったスクーナー型帆船アメリカ号からキールウィークに至るヨットレースの歴史も展示されています。アメリカズカップは、1851年のロンドン万博の記念行事として開催されたワイト島一周レースにアメリカからただ一隻参加した「アメリカ」号が他艇を圧倒して優勝し、ビクトリア女王から下賜された銀製の水差し状のカップを自国に持ち帰ったことに端を発しています。キールはバルト海に面したドイツ北部の都市で、中世からハンザ同盟の一員として海洋交易で栄えてきました。ここには1891年に誕生した伝統あるヨットクラブが存在し、世界最大のセーリングイベントの「キールウィーク」が毎年6月に開催されています。(キールウィークの様子はこちらを参照してください)
また、キールは海軍の街としても発展し、あのUボートの基地もありました。ドイツ博物館に展示されているUボートは、1906年に竣工したドイツ初のUボートであるU1。全長42mの潜水艦が内部も見えるように断面カットされて展示されている姿は圧巻です。旧日本海軍の戦艦の模型も展示されており、大陸間での戦争の歴史も垣間見せています。

この他にも、蒸気機関を使った外輪船の動力伝達や、360度回転できるタグボートのスクリューの仕組みを説明するための動く模型、モーターボートの船外機のカットモデル、船の模型が走行できる水槽、海洋研究に使われてきた潜水調査船など、本物に拘った展示が多数あります。
世界の海洋博物館を調べると、イギリスの国立海洋博物館(National Maritime Museum;英国海軍と海事の歴史、ネルソン提督のコレクション)、アムステルダムの国立海事博物館(Scheepvaartmuseum;オランダの黄金時代の海洋コレクション、東インド会社船のレプリカ展示)、パリの国立海洋博物館(Musée national de la Marine;ルイ15世所有の戦艦模型から最新の海洋調査船まで、フランスの航海の歴史を展示)、サンクトペテルブルグの中央海軍博物館(ロシアで最も古い博物館の一つ、ロシア海軍の歴史、ピョートル大帝の船舶模型コレクション)などがあり、日本にはお台場に船の科学館があります。筆者は他の海洋博物館はまだ訪問したことがありませんが、海洋国の英、蘭、仏、露に比べて歴史と豪華さの面では及ばないものの、ドイツ博物館の船舶展示にはドイツらしい質実剛健さがあり、質量ともに決して引けは取らないように感じました。いつか機会があれば他の海洋博物館も訪問してみたいものです。